農業分野のデジタル/AI活用
農業分野におけるデジタル活用について議論する機会があり、デジタルを活用した新たなサービスを考え出してみようという話題になった。出てきたアイデアには、経験のない新規就農者に対して圃場(田畑)に最適な作物や品種をAIで判定して提供する案や、農作業計画をAIで策定する案があった。これらをAIで実現しようとしても、年のサイクルでしか学習できないので、機械学習の利点を発揮できないと考え、私は「できっこない」と一蹴してしまった。では、農業に関して何ならできるのだろうか。
デジタルが、経験のない新規就農者の助けになるケースはある。たとえば、農作物の病気や害虫の診断をするサービスは、スマホで撮った病気・虫食いの葉の写真などを元にAIで原因の病気や虫を診断してくれる。原因が分かれば対策を打てる。グローバル化により病気・害虫が多様化し、また、熟練生産者が高齢化して新規就農者に技術を伝える時間がない中での解決策だ。ただし、対象の作物は限られる。
参考:「AIを活用した病害虫診断技術の開発」㈱ノーザンシステムサービス
https://www.nssv.co.jp/randd/ja/project-02.html
あるいは、経験のない新規就農者でも熟練者と同等の農作業を可能にするアプリがある。たとえば、ブドウ収穫作業で掛ける眼鏡だ。収穫時期になった房を見分けてガイドしてくれて、未経験者でも熟練者と同等のスピードで収穫できる。収穫した房の秀品率は熟練者を上回るという。ブドウの花が咲き始めたころに、房の形を整えるために余分な花を切り落とす作業や、実の粒を大きくするために余分な実を間引く作業を支援する機能の眼鏡もあるという。
参考: 「⾼品質シャインマスカット⽣産のための匠の技の「⾒える化」技術の開発・実証」JAフルーツ山梨
https://www.naro.go.jp/smart-nogyo/r2/files/r2_5g_C02.pdf
さらに、自動的にキャベツを収穫する「キャベツ収穫機」が実用化されている。キャベツ畑を走りながらAIでキャベツを識別して、その位置に刃物を合わせて刈り取り、まわりの余分な葉を落として、丸いかたまり(売る部分)だけを車上の籠に収納する。運転は無人でできるが、籠へのキャベツの収納は人が補助したほうがよさそうだ。ところで、収穫期しか使わない農業機械に、農家はどれほど投資できるのだろうか。
参考:オサダ農機株式会社「キャベツ収穫機」
http://www.osada-nouki.co.jp/cabbage.html
収穫を自動化する例は多いが、使用時期が短いので、大きな機械の場合はなかなか採算が合わない。そこで、シェアというサービスがある。農業機械を利用する時期だけ借りて、終わったら返す。業者は、返却されたらメンテナンスをして、季節を追いかけて別の地域の農家に貸し出す。借りる費用は所有するより若干安く、メンテナンスにより農作業中の故障は少ない。
参考:JA三井リース「農機具リース」
https://www.jamitsuilease.co.jp/service/agriculture/special.html
農業分野にAIを使う例は多いが、AIは機械学習のためのデータを必要とする。たとえば病気や害虫の診断AIには、病気や害虫の被害を受けた作物や葉の写真が学習に使われる。写真は原則として著作権を保護されるので、勝手にコピーできない。学習のための写真は数が必要なので、大勢の生産者等が協力して、このために提供している。もちろん、これらの写真も保護される必要があることは言うまでもない。提供した生産者等が意図する範囲を越えて情報・知識等が流出する事態、提供した結果の成果を提供した生産者が利用できない事態は避けたい。そういうときの契約書のガイドラインを農水省が提供している。その出来栄えを評価できるほど読み込んでいないが、契約内容を白紙から考えるよりはこれを利用するのが確実だ。
参考:農水省「農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン~農業分野のノウハウの保護とデータ利活用促進のために~」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/keiyaku.html
農研機構が提供する農業データ連携基盤WAGRIというクラウドサービスがある。気象や農地、収量予測など農業に役立つデータやプログラムを提供する公的なサービスで、官公庁・農研機構・民間企業・民間団体などから様々なデータやシステムが提供され(有償を含む)、それを利用して農機メーカやICTベンダなどが農業者等へのサービスを提供する。私自身は直接利用したことはないが、注目している。
参考:WAGRI https://wagri.naro.go.jp/
あるいは、AgriTechという表現でスマート農業を表すこともある。その中には販売支援も含まれる。たとえば、「農家の直売所」という農産物流通プラットフォームは、生産者と都市部のスーパーマーケットを結び付け、収穫翌日には店頭に並べる仕組みを整備し、販売価格は通常の流通経路より若干安く、生産者の手取り額は多い。売場に生産者の顔写真を置くなどして、消費者に身近に感じてもらえる工夫をしている。
参考:株式会社農業総合研究所「農家の直売所」
https://nousouken.co.jp/service/farmers-direct-sales-office
冒頭に述べたような、経験のない新規就農者に対して、自分の圃場(田畑)に最適な作物や品種をAIで判定して提供する例や、農作業計画をAIで策定する例は見つけられなかった。やはり、AIではできないのだと思う。
(ブログ 2025/2/23~2025/3/3)