小林製薬の紅麹原料による健康被害
小林製薬の紅麹原料による健康被害の問題について振り返る。
紅麹関連製品による重篤な健康被害の報告は、一件目を受けてから20日も経たずに6件になり、うち4件は医師からだった。社長は、普段にくらべて異常に多い情報の報告を受け、幹部の会議では回収・終売の可能性に言及したという。なのに、消費者への注意喚起や行政への報告はその後一ヶ月以上されなかった。メーカが消費者の視点を持っていないと、こんなことが起こり得る。
健康被害の情報を最初に受けてから、その情報開示や製品回収開始までに2か月以上がかかった。その間に、月次の取締役会が開催されているが、この件を議論していないようだ。社外取締役がこの問題に関するレポートを読んだのは、情報開示の前日だったという。問題は、取締役会長も社長も多くの経営幹部も知っていたのに、取締役会で話題しなかった。
この2か月以上の間に彼らがしていたのは原因究明である。問題の製品ロットを絞り込み、原料のロットを突き止め、それに意図しない成分が含まれていたことが判明し、ようやく情報開示と製品回収を決断した。それよりも、健康被害の拡大防止が先だろうと部外者は思う。部外者の感覚を経営に持ち込む役割が社外取締役だ。だから、取締役会での議論は大事なのだ。
健康被害拡大より原因調査を優先したのは、行政への報告は「因果関係が明確な場合に限る」という方針を採ったからだ。消費者庁のガイドラインにあいまいなところがあるとして、安全管理部が消費者庁のガイドラインを読み解いて得た解釈だという。そうであれば消費者庁に確認すべきだった。この解釈が独り歩きし、健康被害の拡大防止より原因究明を優先する行動へとつながった。この文言は規程等にはないが、これを社内で何度も確認したのに、なぜか誰も疑問を言わず、相談した弁護士も妥当という意見だった。同一製品で問題が連続したら、原因は不明でも因果関係は明白だ。
危機管理規程には、重大な製品事故等があったときに危機管理本部を設置することが定められている。紅麹原料による健康被害が続いた時点で、原因不明であっても重大な製品事故には違いないはずだ。危機管理本部で集中的に検討すれば、判断は早くなったはずだ。
製薬会社には信頼性保証本部が必須の機能として設置され、その役割はビジネスを推進する事業部(製造部門・販売部門)に対して、製品の品質と安全性を担保する観点からのブレーキである。ところが、議事録等を見ると、信頼性保証本部が行政への報告等に関して業績への影響を考えたことが分かる。役割を果たして事業部と喧嘩していれば、社長の判断は違ったかもしれない。
(ブログ 2024/11/27~2024/12/4)